COLUMN

2022.05.08

帯状疱疹と帯状疱疹ワクチン

【帯状疱疹とは】

帯状疱疹とは水疱瘡と同じウイルスである、水痘・帯状疱疹ウイルスが原因の病気です。小児の頃に、初めて水痘・帯状疱疹ウイルスに感染すると水痘として発症します。(子供の時にかかる水ぼうそうです。)しかし、実は水痘は治った後でも、ウイルスは消えること無く生涯にわたって体内に潜伏します。体内に潜伏していても、普段はこのウイルスは身体に対して特に害をもたらす事はありません。しかし、ストレスや疲れ、感染症などで免疫機能が低下すると、潜んでいたウイルスが再活性化して、帯状疱疹を発症する事があります。帯状疱疹の発症率に関しては様々な報告がありますが、加齢に伴って発症率が高くなります。50歳を越えた辺りから発症率は増加し、80歳までに約3人に1人が発症するという報告もあります。

 

【帯状疱疹の症状】

帯状疱疹の初期症状としては、皮膚に変化は無いものの鈍痛やピリピリするような痛みを感じる事があります。1週間程度経過すると、徐々に皮膚に発赤、水疱形成などの皮膚症状が現れ、痒みや痛みを強く感じるようになります。通常、この発疹は体の左右どちらかに帯状に広がります。帯状疱疹の『帯状』という意味は、このような特徴のある皮膚症状の為です。症状がよく現れる部位としては胸や背中が多いですが、この他にも顔や腕、脚など身体のどこにでも発症する可能性があります。また、特に頭部に発症した場合には、顔面神経麻痺や視力障害を来す例も報告されており、早めの治療開始が推奨されます。さらに、皮疹が治った後も発症部位の皮膚に、痺れやピリピリする感覚異常、痛みが続く事があります。これは帯状疱疹後神経痛(PHN)と呼ばれるものです。発症頻度は高齢者や女性、皮疹が広範囲に出現した方、痛みの症状が強かった方などに多く出る傾向がありますが、全体では帯状疱疹になった方の約2割がPHNに移行していくと言われています。PHNは鎮痛剤などで対症的に治療しますが、良くなるまでに6か月から1年以上もかかる場合があります。この他にも、耳の周りに発症した帯状疱疹ではハント症候群と呼ばれる合併症があり、顔面神経麻痺(目や口が閉じられない等の症状が出ます)、難聴、めまい、味覚障害などが発症する事があります。顔面、特に目の周囲に発症した場合には角膜炎や結膜炎を来す事があり、重症の場合には眼科受診が必要になる事もあります。

 画像:日本皮膚科学会より

【帯状疱疹の治療】

帯状疱疹の治療は、一般的には抗ウイルス薬の投与と局所に対する外用剤の塗布等が行われます。抗ウイルス薬には『ファムシクロビル』や『バラシクロビル』がよく使われますが、2017年から新しい薬である『アメナメビル』も登場し治療薬の選択肢が増えました。これらの抗ウイルス薬は発症後に早め(3日以内程度)に投与するのがいいと言われています。早めに投与する事でPHNへの移行を改善する事にもなります。ただし、重症の場合には入院して点滴で薬剤を投与する必要があります。PHNが発症した場合には、薬物療法(抗うつ薬、プレカバリン、弱オピオイドなど)や局所治療(神経ブロックなど)、理学的療法(リハビリ)など多方面からのアプローチが必要になる事がありますが、完全に痛みを抑えるのは難しい場合もあります。

【帯状疱疹ワクチン】

50歳以上の人に対して帯状疱疹ワクチンを使用して、帯状疱疹の発症を予防する事ができます。帯状疱疹ワクチンは、帯状疱疹の発症予防・重症化予防効果はもちろん帯状疱疹後神経痛(PHN)を軽減する作用もあります。現在では帯状疱疹ワクチンは生ワクチンである弱毒生水痘ワクチン(商品名:ビケン)とサブユニットワクチン(商品名:シングリックス)の2種類があります。それぞれ効果や接種回数、費用、接種可能な対象者に差があります。どちらを接種するかは、かかりつけ医によく相談しましょう。なお帯状疱疹ワクチンは50歳以上の方を対象とした、あくまで任意接種で行われているものであり、2022年5月現在のところ横浜市では接種費用の助成等は行われていません。(市町村によっては助成を行っている自治体もあります。市町村のホームページで確認しましょう。)

 

  • ①弱毒生水痘ワクチン(ビケン)

弱毒生水痘ワクチンは弱毒化された生きたウイルスが含まれたワクチンです(生ワクチンといいます。)。元々は1987年に小児に使用する水痘ワクチンとして認可されたものですが、2016年から帯状疱疹予防としても厚生労働省により認可され、使用できるようになりました。弱毒生水痘ワクチンを接種する事で、帯状疱疹の発生率が51.3%減少、帯状疱疹後神経痛の発生率も66.5%減少させたと報告されています。ただし、ワクチンの持続時間に制限があり、長期的な追跡調査の結果では、8-10年程でワクチン効果は消失するとされています。副反応は発熱や注射した局所の症状などがありますが、いずれも7日間以内に改善する事が多く、またサブユニットワクチンより症状は軽いとされています。稀に全身の水痘様症状が発現(2-3%程度)する事もあります。接種回数は、1回接種のみになります。(後述のサブユニットワクチンは2回接種になります。)他の生ワクチン(BCG、麻疹風疹ワクチン等)を受けた場合は約4週間程度、新型コロナワクチンの場合は2週間空けて接種する事が可能です。不活化ワクチン(インフルエンザ、肺炎球菌ワクチン)に関しては接種間隔の制限はありません。また生ワクチンの性質として、化学療法やステロイド治療を行っている方や妊娠中の方、免疫力が低下している方は接種をする事が出来ません。

 

  • ②サブユニットワクチン(シングリックス)

シングリックスは2020年に厚生労働省により認可された新しいワクチンです。弱毒生水痘ワクチンに比べて帯状疱疹を予防する効果が、かなり高くなっているのが特徴です。シングリックスを接種することで、帯状疱疹の発生率は91.3%減少し、帯状疱疹後神経痛への移行も 88.8%の確率で予防できたという報告があり、従来のワクチンに比べて予防効果のみならず帯状疱疹後神経痛に対しても高い有効性を示しています。また、ワクチン接種後8年以上経っても予防効果が84.0%以上保たれており、8-10年間で効果が消失してしまう弱毒生水痘ワクチンに比べて、接種した後に長期間にわたり予防効果が保たれるのも特徴の一つです。副反応は注射部位の痛みが最も多く、78%の方に出たという報告があります。この他、接種部位の発赤、疼痛、筋肉痛や頭痛、発熱といった副反応の報告がありますが、いずれも7日間以内に改善していくことが多いとされています。他のワクチンと同様に、発熱のある方や過去に本ワクチンでアレルギーを起こした方などは、ワクチンを接種する事が出来ません。シングリックスのデメリットとしては、弱毒生水痘ワクチンと比べて値段が高いこと、2か月の間隔を空けて2回接種が必要なことがあります。他のワクチンとの接種の関連性については不活化ワクチン、生ワクチンとの接種間隔に特に制限はありませんが、新型コロナワクチンを接種した場合は2週間の間隔を空ける必要があります。

 

このように帯状疱疹ワクチンは高い予防効果が期待できますが、いずれのワクチンを選択するか迷った場合は、まずは病院やかかりつけ医に相談した方がよいでしょう。帯状疱疹は、特に高齢者になるほど症状が重く、帯状疱疹後神経痛が発症する可能性が高くなります。特に高齢者の方は、ワクチンで予防できますので接種を検討してもよいでしょう。

横浜市 医療法人 和田胃腸科外科医院